高生産量化学物質の健康リスクレベルに関する評価レポート


星川欣孝 ケミカルリスク研究所

米国NGOのED(環境防衛基金)は1997年に「Toxic Ignorance(毒性の無知)」と題する報告書を発表して、高生産量化学物質(HPV)の基礎的毒性情報の欠如を厳しく指摘した。それを契機にOECDのHPVプログラムは拡張され、2004年までに1000種以上の化学物質についてSIDSレベルのデータが整備されることになった。しかし、最近発表されたCunninghamらの調査*1によると、高生産量化学物質の健康有害性は一般の化学物質に比べてむしろ弱く、高生産量化学物質による健康リスクはEDが懸念するほどでないという結果であった。

*1:A.R.Cunningham,H.S.Rosenkraz, Estimating the Extent of the Hazard Posed by High-Production Volume Chemicals. Environ. Health Perspect. 109(9):953-956(2001)

この調査は、Johns Hopkins Center for Alternatives to animal Testing, ED, Carnegie-Mellon Univ. およびUniv. of Pittsburgの"TestSmart"という共同プログラムで行われ、彼らの調査方法は、高生産量化学物質と一般の化学物質について無作為に代表物質(高生産量化学物質:200種、一般の化学物質:10,000種)を選定し、それら物質のハザードの強さを構造活性相関(CASE/MULTICASE program)によって推定し、ハザードごとにハザードが一定レベル以上になる物質の割合を見積もって比較している。 代表的なハザードに関する彼らの調査結果を示すと以下のとおりである。

ハザード分類 割合(%) 一致率(%)
HPV物質 一般の物質
変異原性:サルモネラ菌 19.5 31.5 85
変異原性:マウスリンフォーマ 19 49.2 70
染色体異常:in vitro 19.5 33.4 66
小核誘導:in vivo 46.5 59.5 81
発がん性:げっ歯類 16.5 33.5 74
遺伝毒性:in vivo 8 23 NA
発がん物質:変異原性 4.5 16 NA
細胞毒性 26.5 41.2 84
細胞間GJ阻害 14 27.3 70
発生毒性:ハムスター 18 26.3 74
発生毒性:ヒト 18 16.4 75
接触アレルギー性皮膚炎 31 48.4 86
感覚器刺激性 19.5 43.4 79
眼刺激性 33 47.4 80
致死性:ラット 15 84.7 84
魚毒性:ミノー 38 56.4 76
生分解性 47 48.1 70