ChemPHESA21における「発がん性評価システムについて


岩田 光夫
呉羽化学工業(株) 生物医学研究所
ケミカルリスク研究会 健康影響評価分科会委員

化学物質のヒトへの発がん性リスク評価についての作成中のシステムは以下のように組み立てられています。なお、がんについては杉村 隆 国立がんセンター名誉総長らの「がんと人間」(1997年5月20日発刊:岩波新書507)で最近の情報が丁寧に説明されています。また、同じ著者による「20世紀の発癌研究を振りかえって」(Molecular Medicine Vol.35 No.6 P.688-699 1998)では動物発癌実験の歴史と問題点が述べられていますので参考にしてください。

このシステムの考え方は最新の発がん性に関する科学的評価を取り入れ、1992年から用いられているIARCにおけるヒトに対する発がん性評価基準(http://193.51.164.11/monoeval/eval.html)、1996年のEPAの発がん性リスクアセスメントのためのガイドライン案(http://www.epa.gov/ORD/WebPubs/carcinogen/)、平成9年9月30日に発刊された厚生省監修「化学物質のリスクアセスメント」(薬事時報社,1997)等を比較検討してシステムを作成しています。これらの資料はヒトに対する発がん性を科学的に考えるのに必須です。特に「化学物質のリスクアセスメント」は一読して頂きたいと考えます。

ヒトに対する発がん性評価はIARCのグループ分類を参考にし、発がん性物質(ヒトに対して発がん性であるとするのに十分な証拠がある物質)。変異原性試験陰性または陽性で動物での発がん性試験陽性物質。ヒトと実験動物に対する発がん性でないことを示唆する証拠がある発がん性陰性物質。変異原性試験陰性または陽性で動物での発がん性試験が行われていない物質。評価に値しない資料しかない評価不能物質に分類しています。 上記評価と、関連した証拠である、病理学的診断、遺伝子に対する作用、構造活性相関、生理学的速度論(PBPK)モデル、物理化学的パラメーター、生物学的相似性等を発がん性評価の資料としています。

用量反応については、1996年のEPAの案を参考にし、10%の反応(腫瘍反応又は関連非腫瘍反応)を引き起こす用量の低い方の95%信頼限界(LED10)を出発点とし、線形性(DNA反応性による遺伝子突然変異の作用モード)または非線形性(閾値現象で誘発された生理的変化の二次的影響)のアセスメントを準備しています。
全ての化学物質が多数の適切な証拠で評価ができる分けではありません。少ない証拠で発がん性の本質、用量反応、暴露の状況を推定し、リスクを何らかの大きさで表現して化学物質の取り扱い方を決定しする(リスクマネジメント)ことが必要になることがありますが、このシステムでは証拠が少ないとより危険度が高く、精度が悪くなる様になっています。使用量およびヒトへの影響度を勘案して証拠を追加していく必要があります。

厚生省生活衛生局企画課のホルムアルデヒドの毒性評価(http://www.mhw.go.jp/houdou/0906/h0613-2.html)やIARCのリスト(http://193.51.164.11/monoeval/allmonos.html)では、ヒトに対する発がん性リスクの評価が、多数の適切な証拠で簡潔になされています。個々の化学物質はケースバイケースで評価されますが、参考にしていただければと考えます。