労働衛生のためのリスク管理


作業場における有害化学物質の管理は、一般的には作業環境測定に基づく管理濃度によって管理することが労働安全衛生法に定められています。しかし、この法律で規定されている管理濃度は作業現場における平均的な雰囲気の濃度であって、現実に作業者が作業中に暴露している濃度とは異なります。従って、この場合のリスク管理は、それぞれの作業において実際に作業者が暴露していると思われる暴露量を直接暴露モデル計算により推算し、必要に応じて適切な防護策を講ずることにあります。

すなわち、図16に示すように、作業者が取り扱う全化学物質のそれぞれの特性から、ヒトの健康に影響を及ぼすハザード項目を選定し、手持ちの毒性に関する試験データを基にTDIなどの暴露限界値を求めます。次いで、予測されるあらゆる取り扱い状況に沿って作業中に受けるであろう暴露量を推定し、その状況でのリスクを予測します。この予測されたリスクが許容レベルを越えている場合には、設備対策など種々の防御策を講じた場合のリスクを再評価し、そのリスクレベルを許容レベル以下に下げるための対策を行い、作業標準書にその旨を記載してリスクを回避するための注意を促します。ただし、一般に現場の作業には定常作業と非定常作業とがあり、多くの場合、定常作業に比べて非定常作業は頻度的には少ないですが1回の作業での暴露量は大きくなることがあります。従って、非定常作業での暴露量をも加味した総合としての作業暴露量を把握しておくべきでしょう。

図16 作業暴露のリスク評価