全体的なリスク評価と個別的なリスク評価
化学物質のリスクを評価する場合、表1に示す様に、全体的なリスク評価と個別的なリスク評価とでは、評価に用いる手法が異なります。
ここで、全体的リスク評価とは、主に行政機関などが法律などの規制の根拠情報として使用するものをいい、一般市民が日常的に大気や食物などを経由して取り込む場合のリスクや自然環境下において生態系が受けるリスクを対象としており、一般には化学物質の極めて低い濃度レベルでの議論です。評価の特徴としては、評価する特定の化学物質に関してその時点で考えられる全てのリスクをスクリーニング的に評価し、その中で最も重大なリスクを選び出し、さらに詳細な調査を行うものです。しかも、そのリスクを評価する場合には、無影響濃度をその判定の基準にしています。
これに対して個別的リスク評価とは、企業を中心とした化学物質を実際に取り扱う者が、化学物質がリスクを発現している現場毎にそのリスクを評価し、それぞれに合った管理の手法を選択するために用いるものをいい、各取り扱い現場での多様な用途実態に対応した評価であることが特徴となります。すなわち、化学物質の全てのライフサイクルにわたって、起こり得る全てのリスクを評価しなければならず、リスクの対象も生産現場の作業者や、化学物質を取り扱う一般の消費者、工場周辺の住民、設備や自然環境などを含む広範囲に及んでいます。しかも、評価すべき化学物質の濃度も、原体そのものを含む極めて高い濃度から、一般環境で問題になる極めて低い濃度までをカバーしており、考えられる全てのハザードについて評価しなければなりません。
従って、システムのタイプとしては、前者が予め設定されたシナリオに従って順序立てて評価し、その中から最も重大なリスク(Critical Effect)を選び出す、いわばハザードに対して直列的な評価を行なうのに対して、後者は現実に起こり得るそれぞれの場でのリスクを単位シナリオに分解しそれぞれを独立に評価する、いわばハザードに対して並列的に評価を行ないます。 現存するシステムの例としては、前者には欧州で使用されているUSESやEUSESがあり、後者には米国の個別のパッケージソフトがあります。なお、今回日化協が構築しようとしているシステムもこの個別的なリスク評価の手法です。
全体的なリスク評価 | 個別的なリスク評価 | ||
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評価の特徴 | 評価実施の目的 | ある化学物質の全てのリスクを評価し、その中で最も重要なリスクを選び出す | 各取扱現場での多様な用途実態に対応したリスクの評価 |
評価結果の扱い | 法的規制等の根拠情報として使用、行動決定の根拠となり得る | 理手法の選択の根拠情報として使用、 行動決定の参考情報の一つ |
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評価の範囲 | リスクの対象 | 一般市民、生態系 | 作業者、消費者、設備、環境、etc. |
リスクの暴露形態 | 日常的暴露 (大気、飲料水、食物) |
作業暴露、製品暴露、環境暴露、etc. | |
対象暴露濃度 | 極めて低レベル | 高レベル〜低レベル | |
システム | ハザードデータ | 重大リスクの無影響濃度 | ハザードの種類別の量依存性データ・毒性発現機構 |
暴露量予測 | モニタリング、拡散予測 | 暴露経路別に予測 | |
リスクの判定 | 暴露濃度/無影響濃度 | 暴露濃度/無影響濃度、 被害の大きさX発生の確率 |
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システムのタイプ | ハザードに対して直列型 | ハザードに対して並列型 | |
システムの例 | EUSES | 日化協が構築中のシステム |