リスクアセスメントの実施手順
日化協のリスクアセスメントシステムでは、リスクの評価は図2に示す通り、以下の手順で行なうことを提案しています。すなわち、先ず提起されている問題の所在を明確化します。次にその問題を評価できる単位に分解し、それぞれについて許容レベルを設定した後、それぞれのリスクレベルを評価します。評価結果が許容レベル以下であれば問題なしとして評価を終了しますが、許容レベル以上であった場合には、許容レベルまで下げるための管理手法の選択を行ない、その管理手法の下でのリスクを再評価し、許容レベル以下になったことを確認します。
一般に提起される問題は「○○のリスクを評価して欲しい」というような抽象的な提起が多く、そのままでは評価できません。従って、先ず評価を行なう動機となった問題事象に対し、以下の項目に従ってその問題の所在を明確にします。
- 問題となっているリスクの対象は何か?(作業者、消費者、周辺住民 、水生生物)
- リスクが問題となっている場の状態は?(蒸気の吸入、液体の皮膚接触etc)
- 化学物質と接触している回数は? (単回、短期連続、長期連続)
- 対象になっている化学物質とその状態? (それ自体、混合物、気体、液体、etc)
なお、リスクを評価する目的や、評価によって得られた結果をどの様に使うのかを同時に明確にしておく必要があります。
前段階で問題の所在が明確になったら、次に図3に従ってそれを単位シナリオに分解します。
先ずリスクが問題となっている「場」を設定します。「場」では、リスクの対象(ヒト、自然環境など)が化学物質と接触しており、特にヒトの場合は、体内に取込む経路(吸入、経皮、経口)によって取込む量が異なります。また、化学物質は何らかの媒体(蒸気、飲料水、食物、衣服 etc)を通して体内に取込まれますが、媒体中の化学物質の状態(固体、液体、気体)や粒径などによっても取込まれる量が異なります。
化学物質が、発生の源から媒体中を移行する様子を記述したのが経路パターンです。これに対し、化学物質とリスク対象の接触暴露の状態を記述したのが暴露パターンです。この経路パターンや暴露パターン、媒体の種類、取込み経路などを組み合わせたのが単位シナリオです。図3には、ペンキ中の溶媒(MEK)にペンキ塗りの作業者が暴露する場合の単位シナリオへの分解の例を示しました。
この例では、ペンキを溶媒で希釈する作業中に手に付着して皮膚を通して体内に取込まれる単位シナリオと、壁を塗る現場で作業中に溶媒の蒸気を吸い込む単位シナリオ、および作業終了後容器を溶媒で洗浄中に溶媒蒸気を作業者が吸い込む単位シナリオの3つを考えました。なお、作業中の作業者のMEKへの暴露量はこれらの総和です。
化学物質のリスクは大きく分けて以下の3つに分類できます。
- ヒト健康への影響のリスク
- 生態系への影響のリスク
- フィジカルなリスク(火災爆発危険度)
それぞれのリスク評価の方法については次節以下で詳細に述べますが、前節で示した例題のリスク評価の様子を図4に示します。
すなわち、経路パターンから選ばれた計算式に必要な条件データを入力し、計算により媒体中の濃度を求めます。次に、暴露パターンにより選定された計算式に、求められた媒体中の濃度および設定された暴露に関連する条件データを入力し、取込み量を求めます。一方、選定されたハザード項目の毒性試験データから影響の量依存性に基づき許容取込み量を求め、前述の暴露による取込み量との比較によりリスクの程度を判定します。
リスク評価の結果、予測されるリスクが許容レベルを超えている場合には、何らかの改善策を講じてリスクを許容レベル以下に下げなければなりません。以下の観点を加味して改善策を選び出します。
- 実現の難易性
- コスト/ベネフィット分析
- 法規適合性