ヒト健康影響の評価
ヒト健康影響評価は、いくつかのハザード項目について、主に動物での試験データを中心に化学物質のヒトの健康に対する影響を評価するシステムであり、ヒト取込み量の推定から計算される取込み量(EHE)とヒト有害性評価の結果から計算されるそれぞれのハザード項目に対するヒト安全量(TDIなど)とを比較することで評価します。
取込み量評価とは化学物質をヒトが直接または間接的に取込む量を推定することを言い、以下の2つのケースが考えられます。
経路パターンと暴露パターンの組合わせで具体的な暴露量を推算します。経路パターンではEPAが作業現場での気体の吸入に提案したモデル式や、ECETOC、RIVM(オランダ)が提案しているモデル式など、各種の方法があります。
化学物質が環境中に放出された後、大気・表層水・土壌にどの様に分布するかを求めた計算結果を基に摂取モジュールを使って取込み量を計算します。上記いずれかのシナリオを選択し、必要なデータを入力してEHEを計算します。
一方、ヒト有害性評価は主に動物の試験データから、図5のハザードの種類別に、種差、個体差、経路差、低濃度外挿などの補正を行い、ヒトのデータと見なして、発がん性ではVSD(実質安全用量)を、一般毒性や生殖毒性などではTDI(耐容1日摂取量)の値を得ます。なお、感作性や変異原性などでは定性的な表現となります。この取込み量とヒト有害性の評価結果を比較してリスクを判定しますが、EHEとTDIやVSDとの比が1以下になるように、管理の手法を選択します。
このヒト健康影響の問題は、化学物質と生体との反応を扱っており、個体差や動物種差が大きく、しかも再現性の確認が難しいものを対象としています。従って、データが少ない場合には種々の予測式を駆使し、不確実性係数を使って影響の評価を行っています。
ヒトの疫学データが極めて少ないという問題もあります。従って、主に動物の試験データからヒトへの影響を推定していますが、必ずしも1対1の対応があるという保証はなく、常に大きな不確実性係数を使うことにより、より安全サイドで議論するようにしています。