環境影響の評価


環境影響評価はいくつかの生物種を環境の代表選手として、生態系全体に対する影響を評価するシステムであり、環境を通じてのヒトに対する影響を評価することではありません。環境影響評価は、暴露評価の結果から計算される環境濃度(PEC)と環境有害性評価の結果から計算される指標生物に対する無影響濃度(PNEC)を比較することで評価しています。

ここで、暴露評価とは化学物質が環境中に放出された後、大気・表層水・土壌にどの様に分布するかを推定することを言い、以下の3つのケースが考えられます。 ここではchemPHESA21を具体例として紹介します。

1. 環境媒体の広域的平均濃度を求めるシナリオ(間接暴露の地域および全国域)

既にUSESやEUSESの中でよく知られたシナリオであり、化学物質の排出抑制が必要かまたは詳細な検討が必要かの判断に用いられます。

2. 工場周辺における環境媒体中の濃度を求めるシナリオ(間接暴露の局所環境評価)

USES/EUSESとの差は、大気拡散のモデルとしてOPSモデルでなくTNOのプルームモデルを用いたこと、表層水モデルを希釈モデルでなく米国のReachScanに変更したこと、および不確実性の評価のためにモンテカルロ的手法を導入したことです。そのためにUSESなどと異なり精度の検討を行ないながら推定できるのでワーストケースすぎることなく、より実際的な判断が可能になっています。

3. 工場周辺の影響が及ぶ範囲の濃度分布を詳細に求めるシナリオ(周辺暴露評価)

米国で使用されているISCLT3(大気)、EXAMS2(表層水)、PRZM2(土壌)を組み合わせて、より地域特異的な検討を行うことにより、前述の?のシナリオのケースよりさらに詳細な検討が可能です。

以上の評価範囲のいずれかをシナリオから選択し、必要なデータを入力してPECを計算します。 また、生産量と環境有害性データのレベルから必要な評価係数を定めてPNECを計算します。日化協のシステムでは、図6、表2に示すように、生産量が少ない場合は全量が環境中に放出されても生態系への影響は少ないと仮定し、基礎的試験系でのデータを用いることとしました。一方、年間の生産量が千トンを超える様な大量の場合は鳥類の繁殖毒性や魚類の初期生活段階毒性など高度な試験を要求しており、試験データが無い場合には大きな不確実性係数を掛けてより安全側の結果が出る様にしています。これは、OECDで行われている評価手法と同じですが、工場周辺の定量的な生態影響評価には適していません。

以上の2つの評価結果から求められたPECとPNECの比が1以下になるように、管理の手法を選択します。

図6 環境影響のリスク評価手順

表2 必要なデータレベルと試験レベル

データレベル 試験系
MPD 微生物系 活性汚泥による生分解性
水性系 魚類急性毒性試験
ミジンコ急性遊泳阻害試験
藻類成長阻害試験
D1 微生物系 活性汚泥呼吸阻害試験
水性系 魚類延長毒性試験
ミジンコ繁殖毒性試験
陸生系 ミミズ急性毒性実験
植物成長阻害実験
鳥類摂餌毒性試験
D2 水性系 魚類初期生活段階毒性試験
陸生系 鳥類繁殖毒性試験

化学物質の環境影響を議論する場合、何を以て環境への有害性とするかが問題です。一般論としては、藻やミジンコや魚を一応の指標生物としてその毒性を評価していますが、食物連鎖の中間段階のミジンコが死ぬと、自然界の他の生物にも影響が及ぶ可能性があり、ひいては自然界全体が滅んでしまうかも知れません。そのことの一つの指標としてミジンコを代表生物にしています。
しかし、これだけで自然界全てを代表しているかと言えば疑問な場合もあるでしょう。ヒト健康影響でも述べましたが、化学物質と生物との反応は種差が大きく、一つの生物の結果から他の生物の状態を正確に予測することは難しいことがあります。従って、正確を期す場合には、評価する水域に適した標的生物それ自身に対する毒性を直接測定しなければならないこともあるでしょう。